幽玄の森

一般大に通うアマチュアテューバ吹きによる、コンサート感想中心のブログ。たまに聴き比べや音楽について思うことも。

1958年の交響作品群 5/17 野平さん&ニッポニカ

5/15(金)の下野さん&日フィルに続き、5/17(日)はこちらの演奏会へと足を運びました。いつのまにか演奏から時間が経ってしまいましたが…。

オーケストラ・ニッポニカ 第27回演奏会
@紀尾井ホール
指揮:野平一郎さん
【1958年の交響作品群】
芥川也寸志:エローラ交響曲
三善晃:交響的変容(舞台初演)
武満徹:ソリチュード・ソノール
矢代秋雄:交響曲
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2つのオーケストラで矢代の交響曲を聴く、そんな、週末。名曲だもの、いいじゃない。邦人作曲家の作品も、ここまで演奏されるようになった。

指揮は、現代を代表する作曲家・ピアニストの野平一郎さん。実は僕は、この方が一橋の兼松講堂での演奏会に出演された際、ちょっとした奇縁で打ち上げで同席させて頂いたことがあります(アマチュアはあの場に僕を含め3人しかいなかったし、そのお2人は安らかにお眠りに…)。
ジュースで過ごした僕はもちろん寝るはずもなく、出演者の方々がお話しされているのを聞いていました。オケのずいぶん裏の話も聞けました(笑)
やがて、どんな曲が好きなのと尋ねられ、ブルックナーマーラーと並んで、日本の作品が好きだとお答えしたところ、邦人作品はもっと演奏されるべきだという話題で盛り上がり、1時間余り続きました。あれはちょうど今から1年前くらいのことです(水響の方々と縁ができたのもこの日)。

その野平さんが指揮する、ニッポニカ。このオケも、邦人作曲家好きとしては当然行きたいと思い続けていたものの、これまでは都合が合いませんでした。これはもう、行くしかないと。

学生券は1000円で、僕の席はL側バルコニーの、ちょうどステージの脇にあたるところ。生音がしっかりと聴こえて来る席。現代ものはわからない曲でも生を聴け、を信条とする僕にとってはありがたいことです。

1958年という年に焦点を当てた凝ったプログラム。開演前に野平さんによるプレトークがあり、その中で印象に残ったのは、「この時代にはまだ、日本にはオーケストラ作品を書くに当たっての伝統というべきものがなかったのではないか」との言葉。戦前には山田や橋本の交響曲などあるものの、たしかにそれが伝統として根付いてはいなかったでしょう。その中で、日本の作曲家としてのアイデンティティをどこに求めるかという根源的な問いに、それぞれの作曲家はどう挑んだのか。それがこの日のテーマ。

スコアを読んだわけではなく、また聴いてからいつの間にか時間も経ってしまったので、1曲ずつ細かく述べる力はありませんが…。

1曲目、エローラはとても丁寧な演奏。前半の何やら得体の知れぬ不協和は弦楽器の厚み(人数は多くないのに!)と、かっちりとはまった打楽器群が印象的。後半の東洋風舞曲は本当に楽しげで、そこに前半の不穏な空気が合流すると、トロンボーンテューバの轟音とトランペットの正確かつ輝かしい音色が鳴り響く。僕にとってはこの曲の理想的な演奏でした。

2曲目、三善。この人の曲は、現代的ながらもどこか優しさや温かみを感じます。この曲もそう。岩城さんがN響で放送初演して以来の、舞台では初めての演奏とのこと。なんと9つもの動機を複雑に組み合わせながら変容させた曲とのことで、その9つ全てを聞き取ることは僕にはとてもできませんでしたが、全体の曲の構成は分かりやすく、実演で聴けば凄みが伝わってくる楽曲。また再演の機会があれば是非聴きたいですね。この曲の演奏も丁寧なもので、三善さんの知られざる曲を世に紹介しようという意欲と誠実さに溢れたものでした。

休憩挟んで3曲目は武満。これも初めて聴く曲。この頃はまだ若かったとはいえ、既に後の作品と同様の節回しや韻律が確立されている…。後の時代の作品より直情的で凄みのある曲。うーん、武満は好きですが、語る言葉を持たないですね、僕は…。

そして矢代の交響曲。この曲は2日ぶり2度目の生演奏体験。下野さんと日フィルの演奏も素晴らしいものだったが、果たしてこの演奏はどうか。
これまた素晴らしいものでした…!1楽章は彫りが深く非常に丁寧な演奏。冒頭の弦楽器による不穏な序奏から引き込まれます。何度も出てくる金管の印象的な暗いコラールは、轟音に過ぎては曲がぶち壊しになるものですが、適度なバランス、適度な暗さ(実はこの点で納得のいく演奏はなかなかない)。
2楽章はインテンポで一糸乱れず突き進む。後半のトランペットのかけあがりがまた素晴らしい…!
3楽章、冒頭のコーラングレのソロはこれ以上にない理想的なもの。後半の弦楽合奏と抑制の効いた打楽器はうまく対比されていました。
そして4楽章。全曲を貫くF-H-Fis の動機が、バスクラによって印象的に鳴らされ、続くフルート・ピッコロの強烈な音が更に不安を掻き立てる。低弦も完璧。ここからの興奮はもう筆舌尽くしがたく、金管の轟音も、打楽器も、木管群も、オケが持ちうるエネルギーを四散爆発仕切った凄絶な、しかし決して暴力的に過ぎない素晴らしい演奏でした。特に、金管楽器は、ただ爆音ではなく、アタックに頼らない芯のある、オルガン的な吹奏加減。フランクの交響曲ブルックナーに通ずるものがあるこの曲、金管はこれがまさに理想的で素晴らしかったです。

それにしても、このオケはなんでこんなに複雑な曲ばかりを仕上げてくるのでしょうか。とても考えられない…。是非また聴きに来たいものです。

実に40作もの作品を委嘱する「日本フィルシリーズ」を続け、近年はその蘇演も行っている日フィル。あまり顧みられない作品を中心に邦人作品を紹介してきたニッポニカ。日本作曲界の歴史を私たちに実演で紹介し続けているプロアマそれぞれの団体を聴くことのできた、稀有な週末でした。
矢代とエローラはいずれ演奏したい…!