幽玄の森

一般大に通うアマチュアテューバ吹きによる、コンサート感想中心のブログ。たまに聴き比べや音楽について思うことも。

ウィーンの風 ゲッツェル&神奈川フィル ブラームス、コルンゴルト

久々のblog更新ですが今晩はこんな演奏会に行って来ました。

指揮:サッシャ・ゲッツェ
ピアノ:ゲアハルト・オピッツ
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
@ミューザ川崎シンフォニーホール
ブラームス:ピアノ協奏曲第2番
コルンゴルト:シンフォニエッタ


定期会員券を持っている日フィルを除いて、プロオケの演奏会チケットを単発で買うのはかなり久しぶり。食指を動かす大きな動機となったのは、昨今流行っている(?)コルンゴルトを聴いてみたいがCDをあまり見かけないということ。また、1月に同じゲッツェル指揮神奈川フィルで聴いたベートーヴェンエロイカが大変面白く、このコンビをまた聴きたいとずっと思っておりました。年始と年末(というには早いか……)にこのコンビを聴けるというのも大変良い。神奈川フィルさん大好きなオケの1つなんですが、横浜まで遠征するのは少し大変な上に、土曜公演が多いためなかなか聴けずにいたところ、珍しくミューザでの公演ということで飛び付いたわけです。生演奏が貴重な名曲は極力聴かねば、と。

前半はブラームスのP協2番。ソリストに巨匠オピッツ登場。当然このオピッツのソロに期待してきたわけですが、この演奏ではピアノは勿論のことながら、オケがとてもよかったです。オケの役割が大きくシンフォニックなこの曲は、オケが控え目な伴奏に徹すると、つまらないなあ……となりがちです(僕だけかもしれませんが)。ゲッツェル&神奈川フィルは、巨匠ソリスト相手に臆さずがっつり横綱相撲を組みます。緩急自在のアゴーギクや幅広いデュナーミク、そして弦楽器中心の楽器を越えた溶け合い。オケだけで大満足な演奏とともに、滋味深いオピッツのソロが優雅に鳴る。なんて幸福な時間でしょうか。第二楽章スケルツォは熱く燃えさかり、第三楽章のピアノソロ弱奏部なんか、ホール全体が静まり返り、息をのみます。
またこのホールでコンチェルトを聴くのは大変良いものです。ミューザの室内楽的響きが生きて、ピアノとオケとの絡み合いが心地よく響きます。
ゲッツェルの指揮は北ドイツ系の硬派な演奏ではなく、ウィーン系の、柔軟で変化に富んだもの。こういうブラームスが聴きたかったので感激……。前にエロイカを聴いたときも、アゴーギクを駆使した演奏はとても面白かった。オケでは山本さんの第三楽章チェロソロと、ホルンが特に印象に残りました。

後半は待ちに待ったコルンゴルトシンフォニエッタ
曲冒頭から凝集度の高いオケの美音がミューザを満たし、一瞬にして魅了されました…。リヒャルト・シュトラウス的な管弦楽法(特に楽器の重ね方)ながら、単に壮麗なだけでなく、様々な表情を見せるこの曲。コルンゴルトを愛してやまぬというゲッツェルは曲の表情を絶妙に描き分けます。こんなに色々な音の絵を見せられ、愉しいことこの上ない……。
時にオケを煽り立て、時に優しく響かせ…、この興奮はライヴでしか味わえません…。
コルンゴルトは19世紀後半から20世紀前半のウィーン気質を感じさせつつ、所々印象派のような和音とか、その後の映画音楽を思わせる金管打楽器とか、これからもっと色々聴き込もうと思いました。 こりゃコルンゴルトファンが一定数居るのも頷けますな。
シンフォニエッタ、日本語で言うなら「小交響曲」とでも言うべき曲名でありながら、実際には3管編成でハープ2台やピアノ、チェンバロを伴うこの曲。ゲッツェルは「ウィーン風のユーモア」と説明したそうですが、そういえばヤナーチェクシンフォニエッタもどでかい編成で演奏時間も短くないですよね。オーストリア帝国ではそんな表現が流行っていたんでしょうか。


知名度の低い曲であるにも関わらず、客席は大興奮でして、こんなに盛り上がるコンサートは海外オケの来日公演でもそうそうないんじゃないかというぐらいです(今年の某一流オケ来日より盛り上がったのでは…)。アンコールに「雷鳴と稲妻」を演奏してオケをめちゃくちゃ煽り立て、指揮者は思い切り跳び跳ねて…… こんな楽しいコンサートいつ以来だろう……。
僕は基本的に、古典から現代まで時代の枠を飛び越えた「プログラムの妙」を味わえるコンサートが好きでして、ノット&東響やカンブルラン&読響などがたまらないと思うタイプの人間です。が、こういうコンサートも時には聴きたいわけです。ゲッツェル&神奈川フィルはそういう欲を十二分に満たしてくれるので大好きなコンビです。

付け加えておきますが、ただ単に愉しいだけの演奏会ではなかったです。ブラームスのピアノコンチェルト2番とコルンゴルトに共通するのはひょっとすると「調性からの逸脱」なんじゃないかと個人的に思いました。コルンゴルトは言うまでもなく、ブラームスのこの曲も、4楽章など、正確に分析すれば調性はあるけれど、一瞬感覚的に調がわからなくなるような瞬間が多々あります。モーツァルト以来、ウィーンで活躍した人には多くみられるのかもしれない。知識不足なのでよくわからんですが……。

次に聴きに行くのは12/6(日)、偶然にもオケは同じく神奈川フィル。神奈川県民ホールにて下野さんの指揮で黛のオペラ「金閣寺」です。