幽玄の森

一般大に通うアマチュアテューバ吹きによる、コンサート感想中心のブログ。たまに聴き比べや音楽について思うことも。

英国音楽の真髄 5/22 尾高さん/新日フィル

今日も今日とてコンサートへ。行き過ぎと言われますが、どうしても行きたい!というプログラムが今月に集中しすぎているのです…

新日本フィルハーモニー交響楽団 第541回定期演奏会
@すみだトリフォニーホール
指揮:尾高忠明さん

ヴォーン・ウィリアムズ:タリスの主題による幻想曲
ディーリアス(ビーチャム編):楽園への道
ブリテン:歌劇「ピーター・グライムズ」より「4つの海の間奏曲」
エルガー:交響曲第1番

オール英国ものプログラム…!それも、指揮は日本における英国もの第一人者、尾高さん。去年読響で聴いたエルガーの3番もなかなかに感動的でした。エルガーの1番をBBCウェールズ・ナショナル響、札響と、エルガー3番を札響と録音していますが、いずれも所有していて、愛聴盤です。というわけで、本日の持ち物はこちら。
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僕は英国音楽が大好きでして、特にエルガーとRVWの作品に対する愛情では負けないと自負しています(何の自慢だよ…)。エルガーの1番は実演3度目、RVWの「タリスの主題」とディーリアス「楽園への道」は実演2度目。
また個人的には、2月の秋山さんと東響のエルガー1番他が楽しみにしていたものの急遽聴きに行けなくなってしまったので、ようやくエルガーを聴けると楽しみに向かいました。
会場に着くと、オケの同期、先輩など、知っている顔がちらほら。エルガーの1番もここ数年は演奏機会がプロアマ問わず格段に増え、ウォルトンやRVWまで演奏されるいい時代になりました(あとはエルガー2番さえ演奏されれば完璧なんだが…)。
本日の学生券は1階1列が中心で、僕の席は1列6番という下手側にかなりよったところ。いい席とは言わないでしょうが、弦の生音がよく聞こえてくるので嫌いじゃないです。

今日の布陣は、コンマスに崔文殊さん、そのサイドには西江辰郎さんがつくという重厚なもの。1曲目のRVWが弦トップとその他で別の動きをするよう書かれていることもあって、各パートサイドにトップ級の方が並びます。
尾高さんと新日フィルはなんと初共演とのことですが、全体を通して、そんなの信じられないくらいとても良いコンビだと感じました。また是非とも新日フィルを振って欲しいです。


1曲目、タリスの主題による幻想曲。この曲、ときどき聴きたくなるもので、本当に癒されます。
新日フィルの弦楽器ってこんなに綺麗だったっけ…? とりわけ、ヴィオラ首席の篠崎さんのソロが美しく、適度に陰影がこもったもので素晴らしかった…!崔さんのソロもよかったけれど、ちょっとこの曲にしては明るすぎかな…?尾高さんの指揮は感情のこもったものでした。

2曲目、ディーリアス「楽園への道」。弦楽器の細かい動きは少し走りぎみですが、やはり美しい。木管の響きはこのオケちょっと独特だと思うのですが、その音色がこの曲にはとてもよく合う。控え目な打楽器も曲の持ち味を引き出します。もっと大人しい印象のあったこの曲に、こんなに色々な色合いがあったとは。緩急自在に曲を作り上げる尾高さんに感嘆。

3曲目、ブリテン。一言で言うなら、スコアが目に見えるかのような透明感のある演奏。ブリテンオーケストレーションの巧みさを実感させる明晰な演奏でした。

エルガー1番。尾高さんの十八番中の十八番。期待に胸が高まります。
1楽章。ティンパニと低弦のAs音による導入の直後、フルート・クラリネットファゴットヴィオラによる主題の提示が大変美しい…!特にヴィオラは1曲目同様特筆もので、この曲に一気に引き込まれます。徐々にオーケストレーションが厚くなっていくなかで、とりわけ印象に残ったのは、低弦のフレーズの入り方・納め方。これがとても丁寧なもので、長い音の多い主題と4分音符が続く伴奏との対比が明晰なものでした。特にこの部分は、耳で何となく聴くだけでは3拍子に感じられるものですが、スコア上4拍子であり、それには意味があると思っています。そういう意味で、4拍子感をはっきり出していたこの日のフレーズ納め方はとてもいい。また、金管が加わって以降はテューバの響きが印象的で、比較的大きめの音でフレーズ感たっぷりに歌い込んでいました。
その後の複雑な展開部では、拍子の変化とともに歌い方を変化させるのが上手い…曲の構造がよくわかります。この曲の独特の拍子の書き方(4/4と3/2など)にはちゃんと意味があるはずで、特に3/2の所の攻撃性が描き出されていて良かった。エルガーというのは、ただ美しい旋律や堂々たる行進曲ばかり書いた人ではなく、どこか攻撃的な側面も持った人でした。それは貧しい境遇から国民的作曲家へと進む中で生まれた性質なのではないかと思うのですが、そういったエルガーという人の多面性がよく出た1楽章でした。終結部の方はややアンサンブルに乱れがありましたが…。

2楽章。この楽章の弦楽器は大変難しく、かっちりと噛み合った演奏は少ないように思います。が、この日の演奏は一糸乱れぬアンサンブルに感嘆…。この楽章のテューバが大変剛胆でびっくりしましたが、音が割れることはなく、決してうるさく感じません。
さて2楽章には数ヶ所、金管の駆け上がりがありますが、その際必ず最終音が木管か弦によってそのまま続けて伸ばされるというのがこの楽章の1つの特徴です。よくある演奏として、金管が爆音で投げ捨てるようにフレーズを終え、その直後と全く繋がらないというものなのですが、この日の演奏はとても丁寧に次へと受け渡し、最終音の伸ばしや次の動機によく繋がります。実はこれ、なかなかない。これほど流れのよい2楽章は久々に聴きました。やや打楽器が固かったかな…。

音楽は少しずつ純化され、3楽章へ。新日フィルの弦楽器(特に崔さんの時)は全体として明るい音色で、エルガーっぽくないと言えばその通りなのですが、しかし耳の良いオケですから、3楽章の透明感は素晴らしい。尾高さんは独特の溜めが数ヶ所ありましたが、それが決して違和感なく、またオケとのコミュニケーションも完璧でした。

4楽章。なんと2・3楽章に続けてアタッカで演奏(土曜に聴きにいく人は覚悟していてください)。聴衆もオケも疲れてしまいそうですが、そんなこと言えないほどホール全体が演奏に引き込まれていたので問題なし。この4楽章に関しては、尾高さんの録音2種ともやや雑に感じられていたのですが、この日は全くそう思いません。今までの尾高さんのエルガー中、4楽章は最良の演奏なのでは…?

全体を通して、とりわけ印象に残ったのはフレーズの納め方。1楽章の冒頭や2楽章の金管駆け上がり直後、3楽章などについて書いたように、曲が途切れることないように丁寧に各フレーズが閉じられていて、特に間近に見える弦楽器はこの点にこだわっているように見えました。
また、この曲にはヴァイオリンなどに"Last desk only"すなわち一番後ろのプルトのみという変わった指定があるのですが、今日の演奏では1stVnの最後列プルトが情感に溢れながらも節度を保った演奏で大変印象的でした。

この日のすみだトリフォニーは空席が目だって少し残念でしたが、聴衆のマナーが大変よく、そのため演奏に誰もが集中できました。これも心に残る演奏になった要因でしょう。大変満足。
エルガーやっぱりやりたいな…。